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    科学の活用と誤用(1) C.P.と福島原発事故 - 2011.04.13 Wed

    東京電力福島第1原子力発電所の事故が国際的な事故評価尺度(INES)で最悪の「レベル7(深刻な事故)」に評価替えされて1日がたちました。平静を装う日本政府をよそに、海外からは日本に対する不信の津波が次第に波高を増しています。今後はその不信が不安となり、根拠のない日本製品ボイコットなどに広がっていくおそれさえあります。一方、国内では、政府やマスコミに対する不信から扇情的な一部ジャーナリストを信仰する人々がネット上で右往左往の傾向を強めています。

    ●原子力安全委は他人事

    その責任は第一義的に、日本政府・東電はじめ原子力の安全に携わってきた関係者に帰せられます。国民が「安全のための機関」と思っていた原子力安全委員会からは「3月23日の時点で、放射性物質の放出量がレベル7相当と認識していた」という発言が飛び出しました。しかし、そのとき原子力安全委は何のアクションもとりませんでした。「INESの評価は原子力安全保安院の仕事」。おまけに「レベルが上がっても事故対応が変わるわけではない」からだそうです。なんと他人事です。

    fukushima 

    ●レベル7評価に逆批判も

    原子力安全保安院は「放射性物質の総放出量はチェルノブイリの10分の1」と説明します。また、菅直人首相は12日夕の会見で「放射性物質の放出は少なくなってきている」と強調しました。一方、ロシアからは「健康への影響から判断すればレベル4にも届かない」(ロシア科学アカデミー原子力エネルギー安全発展問題研究所のアルチュニャン副所長)という”逆批判”さえ出ています。

    ●「安定」の根拠は?

    石棺 

    どうやら、外部からの放水作業が始まった3月の3連休当時までに現在までの累積放出量の大半が放出されて、その後は最高の放出時に比べるとはるかに少量の放出がだらだらと続いているのが実態のようです。安全委の試算では、3月15日のピーク時に比べると、現在の放出量はその1万分の1程度とされます。これはこれで、「評価替え」の遅れ批判の強力な根拠になるのですが、その一方で将来への見通しについて、政府・東電は少々楽観的なのではないかとの懸念が残ります。「レベル7ではあるが、チェルノブイリとは違う」という見方の根拠は「原子炉が爆発したわけではない」「放射能による直接の死者は出ていない」「現在の放出量は少量」「封じ込めの対策が今後進展する」ことです。しかし、これはとりもなおさず、放射性物質を閉じ込める原子炉格納容器が壊れたり、給水機能がストップしたりすれば、根拠が失われます。そして、福島第1原発には、チェルノブイリの1基とは比べものにならない大量の核燃料がまだあるのです。

    ●C.P.といってもコスト・パフォーマンスではありません

    大学時代に習ったあるラテン語の単語を思い出します。セテリス・パリブス(ceteris paribus)。略して「C.P.」です。ミクロ経済学で、一定の経済変数の影響を扱う場合、他の変数の値はすべて一定であると仮定します。つまり、「ほかの条件が一定なら」というのが「C.P.」の意味です。まさに、福島原発の放射性物質の放出の今後についての政府見通しにこれは当てはまります。

    ダビンチ 

    ●科学的手法には大事なC.P. されど現実は

    学問の世界では、「C.P.」はとても大事です。自然科学にしても、社会科学にしても、実際の事象は気が遠くなるほど多種多様な変数によって左右されます。しかし、それ全体を操作して事象を科学的手法で分析するのは不可能ですから、「C.P.」を使うのです。大学時代の近代経済学の先生は「C.P.」を教えてくれたとき、「学問と現実は違うんですよ」ということを強調していました。

    ●科学的手法の野望

    さはさりながら、自然科学で実験や科学的推論が成り立ちうるのは、「C.P.」のおかげです。また、「C.P.」の状態を作り出すことに実験は最大の精力を注ぎます。完璧な「C.P.」の状態を作り出すことに成功すれば、仮説の正否を知るのはそうむずかしいことではありません。私の大学時代には計量経済学が華々しい成果をあげつつありました。「C.P.」とコンピューターを使った成果でした。政治学でも計量的手法をとりいれようというのがはやりでした。理系の同級生の中には「将来、遺伝子解析が進めば、貧困や差別も解決できるのよ」と夢見る女子学生もいました。

    dna 

     ●計量政治学の挫折

    綾小路きみまろさんではありませんが、「あれから40年」。最近では、計量政治学ということばはほとんど聞きません。政治学の入門書では数式の影が薄くなりました。政治学では個人個人の心が一番重要な変数です。「人生いろいろ」ですから、それに計量的手法を応用するのや、「C.P.」の状態を作り出すのは困難なのです。当時鳴り物入りで自然科学系から政治学の分野に参入してきた学者もいましたが、結局は突拍子もない議論が少なくありませんでした

    スパコン
    スーパーコンピューターはすべてを解決するか?

    ●リーダーはC.P.の限界わきまえる必要

    原発事故については、「C.P.」の限界を踏まえたリーダーシップが必要なのです。でも、「おれは原子力に強い」という理系の菅首相は危うい限りです。まさに、論語にいう「学而不思則罔、思而不学則殆」=学びて思わざれば則ち罔し(くらし)、思いて学ばざれば則ち殆し(あやうし)=の感があります。

    ●理系偏重の弊害

    戦後の日本には「理系偏重」の傾向が色濃くあります。「数学ができないとお医者さんになれない」というのはその1つの負の結果です。経済学の分野でもそれは見られます。最近の1つの例は、古くは景気回復、新しくは大震災復興のツールとしての「赤字国債の日銀引き受け」あるいは「政府紙幣の発行」です。反対論者は「これに手を出せば、際限がなくなり、超インフレを引き起こしかねない」と主張します。一方、推進論者は「インフレなど起きない」と反論します。

    ●国債日銀引き受けの論法

    日銀 
    日銀本店

    日銀による引き受けの限度、あるいは政府紙幣の発行限度を守れれば、効果はあるかもしれません。しかし、賛成論者にとって、これは「C.P.」です。固定されてしまった変数です。要するに考慮しないのです。それ以外の条件だけ考えて「効果的」と主張します。

    ●C.P.で見落とされるもの

    しかし、国民経済を勝手な「C.P.」で左右されてはかないません。これには先例があります。日本では赤字国債発行は財政法で禁じられていますが、現実には莫大な量の赤字国債が累積しました。なぜでしょうか? 皮肉なことに赤字国債発行に踏み切ったのは、財政均衡論者であった故福田赳夫首相でした。当時私は駆け出しの首相番記者でした。福田さんは限度=出口戦略を考えていました。しかし、「天の声にも時には変な声」で、福田さんは権力から追われました。その後の田中角栄亜流政権の日本は際限のない赤字国債垂れ流しを続けました。「政治家は安易な財源調達に走るものだ」という一番重要な前提を考慮に入れなかった結果です。

    菅直人 

    ●いまC.P.の罠は何?

    さて、原発事故対策に振り回される政府・関係者が「C.P.」の罠に落ちて見落としている重要な条件は何なのでしょうか? 「日本の二大リスクは原発事故と菅直人」という警句を演繹すると、菅さんが政権に居座り続けていることが、それかもしれません。





     

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    TVコメンテーター
    法政大学法学部教授
    元朝日新聞編集委員
     政治記者、カイロ、ウィーン
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