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    2010-11

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    避けられない既得権の検討 TPPを農業再生のてこに - 2010.11.16 Tue

    先週、長崎県西彼杵郡長与町議会と時津町議会合同の研修会で講演しました。テーマは、「今後の日本の行方について」。講演では、世界を動かす中心的な市場が欧米からアジアにシフトしようとしている中で、日本のとるべき道をお話ししました。菅直人首相すら「第二の開国」という状況の中です。坂本龍馬が日本の辺境から出たように、第二の坂本龍馬を地方が輩出することを期待します。

    TPP 

    TPPの参加国
    緑     は発効時の加盟国
    オレンジ は発効後の参加国


    ●地方で関心の高いTPP

    これまで、地方での関心は多くの場合「地方の活性化」「地方の再生」だったのですが、「空白の10年」が「20年」になったいま、地方の問題は日本全体の問題の解決なしには解決しなくなっています。開会前の町長さんや町議会議長さんとの話で必ず出てきたのが「TPP」(環太平洋パートナーシップ)の3文字だったのも、それを象徴しています。

    ●荒廃する農業

    長与町の場合、耕地面積の約半分が耕作放棄地、また農業従事者の多くが70歳以上でかつ後継者のめどが立たない農家が多いとのことです。2005年農林業センサス(農林水産省)によると、全国の耕作放棄地は22万ヘクタール(総農家)で、耕地面積に占める割合(耕作放棄地率)は
    5.8%となっています。これに土地持ち非農家分を加えると38.6万ヘクタールになります。長崎県は耕作放棄地の割合が15.5%で全国一です。長与町のケースはその中でもとくに耕作放棄の傾向が強いようです。

    耕作放棄地 


    ●長与町は未来の日本図

    これは極端な例だといってすますことはできません。「農業従事者の多くが70歳以上でかつ後継者のめどが立たない農家が多い」という長与町の嘆きはそのまま全国の農業地帯の嘆きです。このままでは国全体が長与町と同じ状態になります。長与町は、長崎市のベッドタウンとしての発展の道がありますが、そのような可能性がない町にとって、それは深刻です。

    ●農業再生の障害となった農地法

    講演の後に1人の町議さんが質問に立ち「農地の流動化こそ重要」と指摘されました。その通りです。耕作放棄後継者難の問題を解決し、農業の生産性を上げ、結果的に食料自給率の向上につなげるためには、大規模営農化が最善の道です。それを妨げているのが農地法です。自民党政権も末期には大規模営農化を農政の柱に掲げましたが、それは失敗しました。大規模営農化を妨げてきた人たちの言い分はさまざまです。いわく、土地の流動化による株式会社農業はかつての地主小作制の復活、自営農こそ国の基本、農業の伝統を守れなどなどです。

    ●圧倒的に低い日本の農家1戸あたり農地面積

    フランスの農村 
    フランスの農村

    戦後の農地改革の中では、農地法は自営農育成の効果を持ちました。しかし、それから60年たって、産業構造や食料消費のあり方、そして国際環境が大きく変わった現在では、農地法の規制は既得権の擁護であり、都市近郊では、地価値上がり期待の農地保有の温床です。その結果、農家1戸あたりの農地面積でみると、アメリカやオーストラリアと比べなくとも、フランスやイギリスの40~50ヘクタールに対し、日本は多く見積もっても2ヘクタール以下です。面積が小さければ、生産性が低いのは当たり前の話です。


    ●戸別所得保障は農業衰退を助長

    米作は最近では、1年に20日強の労働投下で成りたつそうです。これは2種兼業農家を生み出すだけでなく、農業後継者難を拡大再生産しています。こうしてみると、米作農家を対象とした民主党の「農家の戸別所得保障制度」がいかに農業の現状固定から衰退への道を開くものかが明らかになってくるでしょう。

    ●TPPを機に農業再点検を

    農林業予算にまつわりついたさまざまな既得権益をひとつひとつはがしていって真の農業改革につなげるのは容易でありません。その意味で、これまで日本を豊かにしてきた製品輸出が競争力を失うか否かに関わるTPPは、かっこうの黒船です。生産者米価をはじめ農家の所得保障にいたるまで、農林業予算全体をこそ「事業仕分け」の対象にしなくてはならないでしょう。

    ●16日夜の追記

    TPP論議はいよいよ旬になってきました。
    以下の青字は16日の読売新聞電子版の引用です。

    菅直人首相は16日の衆院本会議で「若い人でも障壁なく農業に参加できるよう農地法など法体系も見直す必要がある」と述べ、農業への新規参入を促す農地法の見直しに言及した。「農業をやっている人しか農地が買えない」とも指摘した。
    農業従事者の平均年齢が65.8歳と高齢化していることにも触れ「わが国の農業は貿易自由化とは関係なく、このままでは立ちゆかなくなる」と強調。対策に「必要な財政措置やその財源を検討する」と語った。環太平洋経済連携協定(TPP)を視野に入れた農業改革の一環として発言した。

    これは正論です。しかし、その対策に「必要な財政措置や財源を検討する」となると、虻蜂取らずどころか、焼け太りのおそれさえある。 これまでにばらまかれてきた不必要な財政措置や既得権をスクラップした上で、ほんとうの意味で農業を守り育てる方向に踏み出せれば、「第二の開国」=日本再生も可能でしょう。






    定見なき政府 中国の「いまの所作」について - 2010.11.15 Mon

    アジア太平洋協力(APEC)首脳会議が終わりました。大がかりな国際会議前にテロ捜査情報が流出するという民主党政権の大失態はありましたが、警備面では無事に終わりました。また、世界に冠たる日本のホスピタリティは、中国やロシアの代表団をも満足させずにはおかなかったでしょう。

    ●APEC後も大きくは変わらぬ外交環境

    菅直人 
    菅直人首相

    しかし、われわれ日本国民にとっては、会議前の外交環境と会議後の外交環境はあまり変わっていません。日中、日露の首脳会談は行われましたが、菅直人首相が首脳外交の手腕を発揮して事態を打開したとは到底いえないからです。

    ●民主党政権が引き起こした3つの混乱

    民主党政権は、政権交代以降、日本にとって重要な隣人である3つの主要国との関係を混乱させました。鳩山由紀夫政権は普天間基地移転などをめぐって日米安保の土台に穴をあけました。この負の遺産の上で菅政権は、尖閣沖漁船衝突事件の扱いを誤り、尖閣に対する日本の主権を危うくしたのみならず、その間隙を縫うロシア大統領の国後島訪問を許したほか、中露両国間に領土問題での中露対日共同戦線を形成させてしまいした。こうした負の環境はAPECが終わっても、変わっていません。この状況を理解するうえで、13日(日)のNHK日曜討論での国分良成・慶応大学教授外交評論家の岡本行夫氏の発言がそれぞれ示唆に富んでいました。

    みずき 
    尖閣ビデオから

    ●中国にとっての日米安保

    国分教授は、こういいます。――録画していたわけではないので、2人の発言の細部に誤りがあるかもしれないことをあらかじめお断りしておきます――中国は日米安保はが日本が危険な存在になるのを防ぐ「ビンのふた」であるかぎりは歓迎し、それが対中包囲網になるときには強く批判した。一方、日米安保は中国をいまの地位に引き上げるのに大きな貢献をした。日本が中国にODAを供与することをアメリカは認めた、天安門事件のときに最初にに制裁の緩和に動いたのも(アメリカの寛容を背景とした)日本だった。台湾海峡危機が戦争に至るのを回避したのも日米安保のおかげである。

    ●「どういう所作をしていいかわからない」中国か?

    この上で国分教授は、いま、中国は経済が巨大になり、どういう所作をしてよいのかわからない状態だといいます。。これに対して岡本氏は、「どういう所作をしてよいのかわからない」というのは不適切だと指摘します。中国は1980年代から海洋戦略を設定して、西太平洋を中国の勢力圏とする手を着々と打っているのは明確で、計画的であるというのが岡本氏の見方です。

    ヴァリャーグ 
    中国が購入した旧ソ連の空母ヴァリャーグ

    ●世論にも中国評価の分裂

    「中国のいまの所作」についての2人の見解の違いは、いまの日本の世論やメディアにも見られる対中国観の大きな分裂を反映しています。かつての「ハト派」は国分教授、「タカ派」は岡本氏の見解をとります。

    ●政府に定見がなければ、場当たり外交になる

    世論の見方が異なるのは多様性の現れでもありますが、問題なのは外交・安全保障の責任を負う民主党政府に「中国の所作」についての定見がないように見えることです。国分教授の見方なのか、岡本氏の見方なのか、それともちがう何かなのか。政府から「中国のいまの所作」について評価が示されたことはありません。歴史と未来の座標軸の上で現実を評価することなくして、正しい方針は出てきません。尖閣問題をはじめとする危機に対し、政府の対応が場当たりにしかみえないのは、ここに原因があります。




     

    菅直人首相は何を、どう、言ったか? 日中首脳会談 - 2010.11.14 Sun

    注目されていた日中首脳会談が13日行われました。横浜でのアジア太平洋協力(APEC)首脳会議の中でわずか22分という短いものでした。中国側の発表文では、「会晤」(会談)と「交談」(言葉を交わす)の表現を両方使用された(日経)程度のものです。他方、会談が行われることが公表されたのはわずか10分前。これらを併せて考えると、日本側の執拗な要請に中国側が形式的に応えたという背景が浮かび上がってきます。

    ●日本政府の基本的立場を伝えた

    hu 菅直人 
    胡錦濤中国主席       菅直人首相

    会談の中で、菅直人首相胡錦濤主に対して、尖閣諸島に関する日本政府の基本的な立場を伝えた(読売)そうです。これは、8日の衆議院予算委員会で自民党の棚橋泰文委員に対し「胡錦濤中国主席に対して、はっきりと『尖閣は日本領土だ』という」と答弁した首脳会談最大のポイントでです。13日の首脳同士のやりとりについて、朝日新聞も「首相は日本の確固たる立場を伝えた」との福山哲郎官房副長官の発言を伝えるのみで、「この領域に領有権問題は存在しないとの従来の政府方針を伝えたものとみられる」と、あとは推測になっています。

    ●外交上の理由

    朝日、読売ともに、菅首相の発言の直接引用はありません。福山官房副長官が胡主席の反応を含め、会談の詳細については「外交上の理由から差し控えたい」として明かさなかったからです。また、朝日の「確固たる立場」は福山副長官の発言の引用ですが、読売の「基本的立場」は地の文です。

    福山哲郎 
    福山哲郎官房副長官

    ●政治記事における「引用」の意味

    こうしてみると、菅首相が胡主席に対して何をどういったかははっきりしないというのが現実です。朝日や読売も間接引用にせよ、「日本の立場を伝えた」といっているではないかという方もいると思いますが、新聞が間接引用しかしない(あるいはできない)のには大きな意味があります。政治、とくに外交の世界で、「ことば」は、その意味内容だけでなく、使われた場やニュアンスを含めて極めて大きな意味を持ちます。ですから、政治記者はメモをとるときには、全文筆記を心がけます。最近ではICレコーダーが発達していますから、なおさら発言内容は正確ならざるをえません。正確さを旨とし、さらに過度の推測の余地がないことを心がけています。

    ●憶測の余地を残した「何を、どう、言ったか」

    上記のような条件での福山副長官の発言の引用では、朝日の推測がもっとも好意的な推測でしょう。つまり菅首相が「尖閣は日本領土だ」と明言したかどうかはわからないのです。14日記者会見した菅首相は「わが国固有の領土であり、この地域に領土問題は存在しないということを明確に伝えた」と明らかにしました(読売)。もし、そうなら、福山副長官は誤解を招くようなブリーフィングをなぜしたのか、これも憶測を呼びそうです。

    ●「知る権利」は国会の追及とメディアの取材に期待

    首相官邸 国会議事堂  
    首相官邸                            国会議事堂

    会談冒頭の風景からは、双方首脳の固い表情が明らかでした。とくに菅首相はメモを両手で握りしめ、緊張しきった表情でした。果たして、菅首相の発言が中国に対して日本国民の利益を守ろうとするものであったか、それとも、国民に対して、自己の政権を守るためにするものであったか、また菅首相の「発言」がどのようなコンテクストで出たものなのか。これを明らかにするのは今後の国会での追及や、メディアの取材にまつしかなさそうです。そして、ここでも「知る権利」と「国家機密」の対立が生じそうです。

    さらに、菅首相は14日の記者会見で「私が首相に就任した6月に(日中関係を)戻すことを実現することができた」と述べたそそうです。そうなると、菅首相の状況認識、また中国首脳から「何を、どう聞き取ったか」も検証する必要がでてきそうです。

     

    尖閣ビデオ流出 保安官の処分遅らせる2つの逡巡 - 2010.11.12 Fri

    尖閣ビデオを流出させたのは私だ」と名乗り出た海上保安官(43)の事情聴取は11日で2日目を終えましたが、仙谷由人官房長官の厳しい姿勢をよそに、逮捕されるでもなく何か妙な雲行きです。しかし、海上保安官が名乗り出て以来、日本中は蜂の巣をつついたような大騒ぎです。現在の論点は
    1)youtubeに流出したビデオは「秘密」にあたるか
    2)海上保安官は「職務上知り得た」か
    です。

    よなくに 
    尖閣ビデオの1画面

    ●ビデオは秘密にあたるか?

    衝突ビデオは当初、秘密扱いされていなかったようです。海上保安庁のサーバーに置いてあったビデオは全国の海保で見ることができました。それが秘密扱いされるようになったのは事件から1ヶ月余たった10月18日に馬淵澄夫・国土交通大臣が扱いに厳重に注意するように指示してからです。「後付けで秘密扱いをするのはおかしい」との主張は強いよでうです。また、この主張のかげには、政府がフジタ社員の解放のために「ビデオ非公開」の密約をしたのではないかとの疑惑があります。

    ●ビデオは「職務上知り得た」ものか?

    一方、ビデオが秘密だと仮定しても、これが「職務上知り得た」ものかどうかにも疑いがあるようです。尖閣事件を扱う職務の直接の範囲内に海上保安官がいたかどうかです。まったく違う職務を行っていた者が、たまたま知り得たとしたら、それは国家公務員法が定める刑事罰の要件をみたすのかどうかがむずかしい判断だそうです。11日夜のNHK「ニュースウォッチ9」での警視庁記者クラブからのレポートは、1)2)の判断すなわち国家公務員法が定める要件を満たすかどうかがはっきりしないのが、2日目の午後10時を過ぎても「逮捕」の決断ができない理由だと述べていました。

    ●処分方針決定を遅らせる2つの「逡巡」

    しかし、私はこの遅延の主な理由は2つの逡巡、すわなち政権中枢と司法当局の逡巡だと考えています。

    ●内閣崩壊を心配する政権中枢の逡巡

    まず、「政権中枢の逡巡」です。新聞やテレビを見る限り、世論の過半は海上保安官の行為を「国民の利益」と受けとめているようです。小澤問題尖閣事件そのものの扱い、普天間問題など国政の多くの場面で国民の不興をかっている菅直人政権が、この問題の扱いを誤れば、致命的な打撃を受けます。民主党が助け舟と期待していた公明党すら、補正予算案への反対を正式に決めました。致命的な打撃とは内閣の崩壊です。


    菅直人首相             仙谷官房長官
    菅直人 sengoku

     ●菅直人政権は「王手飛車取り」

    この状況のもとで菅政権が海上保安官の逮捕、処分に走れば、30%台まで落ちた内閣支持率はさらに落ち込むでしょう。マニフェストの空虚さが露呈し、世論しか頼りのない民主党にとっては絶対に避けたいところです。反対に、逮捕しない、あるいは厳しい処分をしないということになれば、国家公務員の守秘義務というガバナンスの根幹を政府みずから踏みにじることになります。世論は政府の判断を一時的に好感しても、やがて「ガバナンス喪失批判」に傾くことは火を見るより明らかです。政府にとっては、どちらの方針をとっても活路がない、いわば「王手飛車取り」の状況に陥っています。判断停止状態といってよいでしょう。

    ●事案は「逮捕相当」

    一方の「司法当局の逡巡」です。純粋法律的にみれば、海上保安官が
    youtubeにビデオをアップロードした11月4日夜には、すでに馬淵国交相による厳重な扱いの指示が有効でした。また、海上保安官がビデオにアクセスできたのは海保の仕事の枠内の可能性が高いといえます。保安官に逃亡のおそれがないにしても、証拠隠滅の可能性はありますから、専門家の目からみると、「逮捕相当」のようです。

    ●司法当局の政権不信

    しかし、11日夜のテレビ朝日報道ステーションによると、事情聴取をしている警視庁は保安官の扱いについて検察庁と協議するといっているようです。どうやら、その背景には、司法の現場の「政治」への不信があるようです。二言目には「政治主導」をいう菅政権は、なにか問題が起きると、かならず現場に責任を押しつけます。中国人船長の釈放のときは、検察庁が政治判断をしたことになりました。今回のビデオ流出について責任を問われると、仙谷官房長官は「政治職と執行職の責任の取り方はちがう」と現場に責任をなすりつけようとします。

    警視庁 
    警視庁

    ●トカゲのシッポ切り恐れる

    警察や検察にとってみれば、世論に抗して、逮捕、厳正処分に走れば、世論を理由にまた「トカゲのシッポ切り」をされかねません。とくに検察は「村木厚労省元局長冤罪」事件で、政権に組織の内部に手を突っ込まれています。ここでまたビデオ流出事件の取り扱いを理由に干渉されてはたまったものではないでしょう。こうした政権の逡巡と、司法当局の逡巡の相乗効果、いいかえれば、政権中枢と司法当局の責任のなすりつけ合いが時間のかかる原因になっているとみるのが妥当です。

    ●落としどころは「処分保留・釈放」?

    では、今後この事件はどうなるのでしょうか? 保安官の責任をまったく問わずに終わるわけにはいきません。眼前の公務員の違法行為を処罰しない政府は存在理由を失うからです。落としどころは、私が11月8日にtwitterでささやいた「国内法に従って厳正に扱い、結果として(内閣支持率を考慮した)”大局的”政治判断で処分保留で釈放、その判断も
    「検察がした」ことになりそうな予感」というところにありそうです。これは、中国人船長の扱いのパロディでもあったのですが、ある弁護士さんは「逮捕して処分保留釈放のほかに起訴してスピード裁判で懲役10日とか実害のない処分でお茶を濁すかもしれない」といっていました。
     






    菅政権にやってほしくないこと  「外交」編 - 2010.11.11 Thu

    2010年度補正予算案の衆議院予算委採決は、政府がめざしていた10日採決を断念し、15日に先送りされることになりました。13、14日にはアジア太平洋経済協力(APEC)の首脳会議が開かれます。この週末から週明けにかけて、日本の政治は菅直人内閣の命運を決しかねない大きな山場を迎えることになりそうです。

    ●重要な決断を迫られるケースが山積

    小沢一郎氏の権力掌握を阻止して登場した菅内閣ですが、9月7日の尖閣諸島沖での中国漁船と巡視船衝突事件以降、やることなすことが裏目に出ています。これから先の一週間を見ても、菅内閣が重要な判断をしなければならない局面が数多く出てくるでしょう。はたして、局面、局面で国民の意に沿う決断、歴史に照らして恥ずかしくない決断ができるかどうか、はらはらしている人も多いと思います。そうした中で、今後「菅内閣にやってほしくないこと」をいくつかあげてみましょう。きょうは「外交」です。

    パシフィコ 
    横浜APECの会場

    ●様相変えた東アジア情勢

    まず、APECです。これまでのAPECはアジア太平洋の国々の「和」を強調するセレモニーでした。しかし、横浜APECはまったく様相を変えています。少なくとも日本にとってはそうです。かつての眠れる獅子・中国は膨張主義を露骨にし、日本や東南アジア諸国を威嚇するだけでなくアメリカにまで「だまっていろ」とうなり声をあげています。その機をとらえて、ロシアは大統領による北方領土視察という、これまでにない大きな「既成事実」を打ち立ててしまいました。

    ●APECでの日中首脳会議 実現しなければ強い批判

    hu  菅直人
    胡錦濤中国主席      菅直人首相

    日中、日露の関係は話し合いによって打開しなくてはならないことはいうまでもありません。しかし、政府民主党の姿勢は、「何が何でも、首脳会談実現」に固執しているように見えます。ブリュッセル、ハノイでの「菅・温・廊下会合」はそれを如実に示しています。たしかにAPECで首脳会談が実現しなければ、菅政権は「無策」として強い国内からの批判を浴びるでしょう。

    ●実現しても危惧が多い

    しかし、首脳会談が実現したところで、菅首相が「胡錦濤中国主席に対して、はっきりと『尖閣は日本領土だ』という」との国会答弁(8日)通りの行動ができるかどうかは危ういものです。首脳会談を実現するために菅政権が中国にどのような「貢ぎ物」をするかも心配です。10日現在中国は日本側の会談要請にだんまりを決め込んでいます。中国側がこれを外交カードとして使っていることは明白です。一見、「和」を重視するかに見える「首脳会談では領土問題を持ち出さない」ことを条件にされたらどうなるでしょうか。「和」を強調し、APECを成功させるためという名目でこれを受け入れても、歴史に残る結果は、「尖閣諸島事件後の最初の日中首脳会談で日本は領有権主張をしなかった」ことになります。

    空から見た 
    空から見た尖閣諸島

    ●首脳会談実現を自己目的化するな

    これを回避するのは、APECの場では、あえて首脳会談を行わない決断をすることですが、世論の支持や友好国の信頼を失いつつある菅政権がAPECをかき乱したという内外の批判を甘受できるかどうかは怪しいものです。「実現」「見送り」のどちらに転んでも、よい結果は期待できないという点で、菅政権は「王手飛車取り」の局面に陥っています。その中で、最低限望まれるのは、「首脳会談実現を自己目的化しない」こと、「首脳会談実現のために、禍根を残すような貢ぎ物をしない」ことです。国民の利益を譲るような「和」は演出すべきではありません。APECの場で「首脳会談を行わない」という受動的なかたちであれ、日本が強い姿勢を示すことは、中国、ロシア以外の参加国の理解を得られるでしょう。

    ●ノーベル平和賞授与式出席に態度表明なし

    劉 
    ノーベル平和賞を受賞する劉暁波氏

    前原誠司外相は9日の国会で、中国の人権活動家・劉暁波氏が受賞するノーベル平和賞の授与式について「中国から日本政府代表を出席させるな」という要請があったことを明らかにしました。ところが、前原氏は「在ノルウェー日本大使の出席については適切に対応したい」と述べるにとどまりました。授与式はひと月先の12月10日です。「APECの大ヤマを越えてから出席表明してもかまわないだろう」との判断があるのかもしれませんが、現在の日中関係からみると、この姿勢には大いに問題があります。

    ●逡巡は日本への国際的評価を下げた

    前原 サルコジ 
    前原誠司外相       サルコジ仏大統領

    まず、中国の要請は「内政干渉」です。また、ノーベル平和賞の授与式に政府代表を出席させるかどうかは、ノーベル平和賞の意義を認めるか否か、ひいては自由主義世界が共有する「平和」と「民主主義」そして「自由」という価値についての日本の態度をはかるバロメーターになるものです。最近中国との間で巨額の商談を成立させたフランスのサルコジ大統領は同じ日、無条件での「出席」を表明しています。ほかのヨーロッパ諸国もこれにならうでしょう。「平和」と「民主主義」そして「自由」という価値を「取引材料」にしてはなりません。日中関係がどのようであれ、出席の判断を留保するべきではなかったのに、政府は逡巡しました。この逡巡は、日本に対する国際的な評価を下げることにつながるでしょう。



     

    世の中いろいろ、人もいろいろ - 2010.11.10 Wed

    週一回六本木に行くときに、ランチに寄るカフェがあります。先日のこと、何かただならぬ雰囲気です。2、3日前に来た7人連れのお客。食事をして、いざ勘定という段になって、「財布を置いてきてしまった。今度払うから」といいいます。顔なじみのお客でないので、「何か証拠になるものを置いていってください」というと、免許証を置いていきました。そのままなしのつぶてだそうです

    ●無銭飲食?

    免許証を頼りにそのお客を探しても、「個人情報の秘匿」の壁が立ちはだかります。マスターのお孫さんが「これは無銭飲食よ! 警察に連絡しなきゃ」といいます。マダムは「もうちょっと待ってみたら」と躊躇します。免許証の写真で本人であることは確認済みだというのですが、免許証を置いたまま、なしのつぶてはちょっと変です。「うちのようなお店にとっては、この金額は大きいのよ。電話1本いれてくれたらいいのに」というマダム。お孫さんは「電話するわよ」と警察に電話しました。早速、お巡りさんがやってきて、事情を聞かれて、帰ったあと、マスターが戻ってきました。

    ●マスター慌てず騒がず

    事情を聞いたマスターは慌てず騒がず。「世の中、いろいろだから、そういう人もいるよ。2、3日待ってみようよ」といいます。無銭飲食説に傾いていた私は「そういう考え方もあるなあ」「お店をやっていたら、お客を信用しなければ、サービスにも影響するしなあ」と思ったものです。

    ●人生いろいろ、世の中いろいろ

    結果を知るのがなんとなく怖くて、1週間空けて、先週また行ってみました。マダムは「あれから2、3日たって来たんですよ。ボーッとそこに立って。払っていってくれました」。他人事ながら、ほっと安堵の胸をなでおろしました。「マスターの勝ちだったね」と私。人生いろいろ。マスターの心にちょっと感動しました。

    ●見慣れた景色にも心和む

    食後のコーヒーを飲んでいると、今度はウェートレスのお嬢さんが、「あらかわいい」と店の外を指さします。見ると、四つ角に面したウィンドウの外、交差点のコーナーにおいたささやかな鉢植えの前に3歳ぐらいの女の子が立っています。赤いフードつきのレインコートを着たその子の写真をおばあちゃんでしょうか、身をかがめて写真を撮っています。ちょうど、雲間からのぞいたお日様が、明るく柔らかい逆光で女の子を際立たせていました。ほんの短い間の逆光のチャンス。女の子を包み込む鉢植えの花の前で、それもローアングルで写真をとるおばあちゃん。ただものではありません。

    ●ちょっといい気分

    店の前にテーブルを出しているお店です。歩道のお花は、そのお店が出しているそうです。それまで何回も来ていたのに、店内からながめる四つ角の光景がなんとなくパリめいてさえ見えました。晩秋の都心で、ちょっといい気分にしてもらった昼下がりでした。

     

    社説を読もう 尖閣ビデオ問題 - 2010.11.09 Tue

     尖閣諸島をめぐる中国と日本の角逐は、その影響をますます広げています。さまざまな要素が複雑にからみあっています。「尖閣ビデオ」の流出についても「けしからん論」と「よくやった論」が飛び交い、どれが正しいかよくわからない人が多い思います。

    空から見た  
    空から見た尖閣諸島 Wikipedia

    ●社説はむずかしくない

    こうしたとき、やはり頼りになるのは、いまや衰退していくメディアといわれる新聞です。それも社説です。「小むずかしいことが書いてあるんでしょ」「社説には写真もイラストもないし、とっつきにくい」と敬遠する人が多いようですが、最近の社説は、どの新聞社も読んでもらうために精一杯わかりやすく書く努力をしています。

    ●インターネットを使って、社説を比較しよう

    複数の新聞をとっている方は少ないと思います。1紙だけだと、お決まりの論調にうんざりということになりますが、そこはインターネット時代のすばらしさ。各新聞社のHPでは社説はタダで見られますし、1週間ぐらいさかのぼって読めます。社説を集めてくれるサイトもあります。かくいう私も全紙講読しているわけではありませんので、必要に応じてHPを利用します。

    社説集め 
    社説を集めてくれるサイトの画面

    ●見出しを比べると

    試みに、「尖閣ビデオ」流出が大きなニュースになった11月6日付の各紙社説を比較してみましょう。まず見出しからです。
    「尖閣ビデオ流出―冷徹、慎重に対処せよ」(朝日)
    「尖閣ビデオ流出 一般公開避けた政府の責任だ」(読売)
    「尖閣ビデオ流出 統治能力の欠如を憂う」(毎日)
    「迫られる尖閣ビデオの全面公開」(日経)
    「尖閣ビデオ流出 政府の対中弱腰が元凶だ」(産経)
    比べてみれば、各紙のそれぞれに姿勢がわかりますし、いまの論点が何かがわかります。本文を比べてみましょう。

    ●論点は2つ

    大づかみにいうと、論点は
    1)「流出」という事態の評価と扱い
    2)尖閣ビデオは公開すべきものか
    の2つです。

    みずき
    尖閣ビデオの画面

    ●「流出」は正義という見方に歯止め

    「流出」という事態については、「流出源の解明、処罰が必要」という点で5紙は一致しています。日本には機密保持法はありませんが、公務員が流出させたとすれば、国家公務員法100条(守秘義務)の違反ですから、立派な犯罪です。世間には、流出させた人を「正義の味方視」する傾向が少なくありませんが、仮にも「社会の公器」たる新聞、それも社説がそれに習うわけにはいきませんし、「公務員の守秘義務」は民主主義社会を成り立たせる重要な要素です。俗論に人々が傾かないようにする歯止めを社説は果たしています。

    ●産経は政府の意図に疑問

    一方、この段階で政府は、6日付の私のブログ「権利の上に眠るもの 尖閣ビデオ流出に思う」で指摘したように、「流出」に関心を集中し、ビデオが衝突事件の実像を全世界に明らかにしたという新しい状況の上に立つ尖閣諸島領有権問題への対策がまったくといっていいほど示しませんでした。その中で、「情報漏洩(ろうえい)の「犯人捜し」と組織改革に国民の目をそらそうという意図が透けてみえる」という産経の指摘が目を引きます。

    首相官邸 
    総理大臣官邸

    ●「公開」「非公開」で分かれる主張

    次に「公開」か「非公開」かという論点です。
    6日付朝刊の段階では、
    「公開派」   読売、日経、産経
    「公開慎重派」 朝日
    「判断回避」  毎日
    と各紙の主張はわかれました。


    ●ビデオに秘匿の理由はないという主張

    読売は「船長の釈放で捜査が事実上終結した今となっては、公開を控える理由にはならない」といいます。産経は「国会での部分公開は菅直人政権が、国民の『知る権利』を無視した」ものだと述べ、「非公開」は民主主義に反すると主張します。ビデオ公開について、政府は刑事訴訟法を根拠に、「刑事事件の証拠であるビデオは公開できない」と非公開を正当化してきましたが、これについて日経は、公開できないという刑訴法の規定の趣旨は「最高裁判例によれば(1)裁判に不当な影響を与えない(2)事件関係者の名誉を傷つけないーーの2点にある」と反論、「中国人船長がすでに帰国した現在、証拠ビデオを公開しても同規定の趣旨には反しない」と主張します。産経は「弁護士でもある仙谷長官が、中国をアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に参加させようと、故意に条文の解釈をねじ曲げた」と激しく非難します。

    sengoku 
    仙谷由人官房長官

    ●「公開は公益」かで分かれる各紙

    「公開派」の社説は、さまざまな論拠から、「公開が公益である」と主張しています。これに対して、朝日は「公開は公益」という考え方に疑問を呈します。朝日の主張の前提は「ビデオは単なる捜査資料でなく、日中外交や内政の行方を左右しかねない高度に政治的な案件である」というところにあります。そして、「外交や防衛、事件捜査など特定分野では、当面秘匿することがやむをえない情報がある」として公開には慎重な態度をみせます。もちろん、朝日も「政府が持つ情報は国民共有の財産であり、できる限り公開されるべきものである」と前置きする複雑な論法ですが、この辺のところが、「朝日はむずかしい」といわれる所以かもしれません。

    ●すべてが明らかにされるべきか?

    19世紀からマスメディアを通じて発達してきたジャーナリズムは「すべてが明らかにされることが公益である」という認識を基礎です。熾烈な「特ダネ競争」はここに存在理由があります。しかし、社会が発達するにつれ、公開が好ましくない種類の情報があることがわかったことも事実です。暴露ジャーナリズムから「プライバシーの権利」を保護するのは、もはや常識になりました。

    GeorgeWashington 
    横須賀に入港した米原子力空母ジョージワシントン

    ●秘匿が妥当という判断はだれが?

    「すべてが明らかにされることが公益である」とは限らないのです。では、今回のビデオのようなケースはどうでしょうか?「プライバシーの権利」ではなく、朝日のいうように「高度に政治的な案件」です。問題になるのは「高度に政治的な案件であるという認定と、その扱いがだれに委ねられるか」です。場合によっては、恣意的あるいは党派的な判断に任されることになりかねません。最近問題になった佐藤栄作政権による「日米核密約」についても「当面秘匿することがやむをえない情報」ではなかったかを考えなければならないでしょう。

    朝日は「公開反対」ではありません。「公開に慎重であれ」というかたちで国民の熟考をうながしています。断片的な情報を投げつける他のメディアと違い、新聞の社説は、さまざまな要素を多面的に考えさせてくれます









    尖閣ビデオの語るもの - 2010.11.08 Mon

    土曜日の夕方、時間が空いたので、いま世間を騒がせている「尖閣ビデオ」6本を通して見ました。東シナ海は青く穏やかなのですが9月7日には、文字通り日中衝突の海になりました。

    ●日本非難強める中国のネット世論

    6日夕方のニュースによると、中国では、当局の規制が緩められた模様で、インターネット上で自由に見ることができるそうです。また、ネットでの書き込みは、当初は「中国側に非がある」というのもあったのですが、次第に「日本非難」一色になってきたということです。

     
    日本人の蔑称「日本鬼子(リューベンクウェイツ)」を茶化した「ひのもとおにこ」というキャラクターまで登場した

    ●「どうぶつかったか」をビデオに見る

    日本では、「中国側に非がある」一色ですが、あえて批判を覚悟で、ビデオを見た感じを記します。「どうぶつかったか」です。

    ●漁船の故意が明白な巡視船「みずき」のケース

    みずき 
    「みずき」への衝突

    10時56分の巡視船「みずき」との衝突は、明白に中国側の故意が感じられます。停船を命じながら、中国漁船の左舷から近づいていく「みずき」は中国漁船との距離が縮まると、左に舵を切り、中国漁船の針路と平行というより、さらにわずかに左に回避しています。そこへ中国漁船が速度を上げて幅寄せのように「みずき」の右舷後方に衝突してきました。離れたところから撮影している僚船の甲板上では、最初衝突に気づかなかったようです。これは、停船を命じて横づけするときのルーティンだったからでしょう。

    ●「よなくに」の場合はわずかに微妙

    よなくに 
    「よなくに」への衝突

    それに、先立つ10時16分の巡視船「よなくに」との衝突はこれに比べるとわずかながら微妙です。中国漁船の右舷を距離を置いて並航していた「よなくに」は、漁船の左舷に回り込もうとして、漁船の前方を横切るかたちで右から左に回り込みます。回り込み終わる直前に、漁船は減速回避するどころか、「よなくに」に向かい左に舵を切った上に、速度を上げて「よなくに」の後尾右舷に衝突してきました。しかし、「漁船の航路を妨害した」との中国側の言い分も微妙に成り立ちうるという感じです。

    ●ビデオ流出で事態はかえって複雑に?

    ただ、いずれの場合も中国漁船は回避のそぶりもなく、むしろ速度を上げています。強い故意が感じられるところです。今回流出したビデオは40数分です。衆院予算委員会の理事が視聴した7分版も含めて、なお全体像がよくわかりません。また、流出ビデオによっても、日中双方は、「自分の見たいものしか見ない」選択的認知に走っています。これについては「海鴎日記」が詳しく書いています。とくにネット上で流布している「中国側が海上保安官をモリで突いた」という憶測が事実なのか否か。まだ、なぞの部分はあります。やはり、早い時期に公開しなかったことによって、事態はかえって複雑になったのかもしれません。

    ●中立的な欧米メディア

    CNN.jpg 

    このビデオは世界中をかけめぐりました。ReutersもCNNもBBCもこのビデオを流しています。海外のメディアは、「尖閣諸島をめぐって日中両国間に領有権をめぐる争いがある」ということを自明の環境として報じています。その点では、「日本の領土であることは疑いのない事実」という日本政府の主張は、国際社会には受け入れられていません。

    ●「collision」か「ram」か?

    一方で、「衝突」そのものについては微妙です。日本のメディアは「衝突」という言葉を使っていますが、英語メディアを見ると「collision」と「ram」という言葉が混在しています。「collision」は日本語の「衝突」と同義で、どちらに意図があったかは明らかにしない中立的な言葉です。

    ●「ram」は故意を示唆

    オリンピア wikipedia
    古代のガレー船 船首の角が衝角

    一方、「ram」は古代のガレー船以来攻撃用の武器として船の船首水面下につくられた 「衝角」です。映画「ベン・ハー」を見たことのある方は、ベン・ハーがローマの提督を救うことになる海戦シーンを思い出してください。「ram」の語源は「雄羊」です。発情期の雄羊は角でライバルと戦いまます。その意味では「ram」は「突っかかる」と訳すのが適当です。巡視船2隻が「突っかかられた」のは舷側です。舷側には
    「ram」はありませんから、「ram」という言葉を使うメディアは、漁船側の故意を強く示唆しているわけです。


    衝角wikipedia

    衝角による攻撃の模式図

    ●日中の対立はコンテクストの対立

    以上のように、国際社会の受け止め方は、日本にも、中国にも味方していません。主権がらみの衝突でなければ、海難審判で決着をつけることが可能ですが、海難審判の場合に判断の基礎となる「現場の状況」よりも、6日未明アップロードの私のブログ「権利の上に眠るもの 尖閣ビデオ流出に思う」で書いたように、中国側は「現場は中国の領海」ということを出発点にしていますから、そのコンテクストでは、「現場の状況」も中国のネット世論の受け止め方を裏書きするものになってしまいます。

    尖閣諸島の領有権を守る気が政府にあるのなら、対中国外交と国際社会への働きかけをビデオが流出したことを出発点とするものに早急に再構築しなければならないでしょう。








    権利の上に眠るもの 尖閣ビデオ流出に思う - 2010.11.06 Sat

    政府は何をやっているのでしょうか。11月4日夜、尖閣諸島での中国漁船と巡視船が衝突した映像がyoutubeに流出しました。政府がかたくなに公開を拒んでいた”国家機密”はあっさり国民の手にわたりました。一方で、ビデオは政府部内から流出した疑いが極めて濃く、国家公務員法違反事件(公務員の守秘義務違反)の可能性が高いのです。犯人が”日本のエルズバーグ”であったとしても、これは厳正に解明されなければなりません。しかし、奇っ怪なのは、政府の関心が、もっぱら「流出」に向けられ、ビデオが衝突事件の実像を全世界に明らかにしたという新しい状況の上に立つ尖閣諸島領有権問題への対策がまったくといっていいほど示されなかったことです。

    尖閣ビデオ 
    流出した尖閣ビデオから

    ●尖閣ビデオ流出で露呈したガバナンス喪失

    横浜でのアジア太平洋経済協力首脳会議(APEC)を目前にしたテロ情報の漏洩に続く、尖閣ビデオの流出は危機管理どころか、いまの政府が基本的なガバナンスを失っていることを示しています。これは国民にとっては大きな損失ですが、尖閣ビデオが異様なかたちにせよ公開されたことは明らかに国民にとって利益です。野党時代の民主党が繰り返し主張してきたように、「情報の公開」は民主主義の基礎だからです。

    ●ビデオは中国の姿勢を変えない

    問題は、尖閣諸島の領有権問題そのものへの対応です。ビデオは民間のニュースネットを通じて中国でも見られています。中国のネット世論は「日本に非がある」というトーンが強いようです。あえていえばこの反応は順当でしょう。中国では「尖閣諸島は中国領である」ことが出発点だからです。朝日新聞によると、中国外務省の洪磊副報道局長は5日、尖閣諸島沖の衝突事件を巡るビデオ映像の流出について、「録画と言われるものは真相を変えることも、日本側の行為の不法性を覆い隠すこともできない」とする談話を発表しました。「日本側が釣魚島(尖閣諸島の中国名)海域で中国漁船を妨害、駆逐、包囲しようとしたことで衝突が起きた」と改めて主張しました。

    地図 

    ●自国民の”権利”を守った中国政府

    この論理でいえば、日本が中国漁船の乗組員を拘束したことは中国の領海から中国公民を不法に拉致したことになります。中国は強硬に返還を要求し、船長以下船員を奪還しました。中国政府は自国民の利益を守るのに成功したわけですし、日本が要求に応じたことは、陰に中国の領有権主張に譲歩したことになります。

    ●自国民の権利を裏切った民主党政権

    これに対し、日本政府は処分保留での釈放によって、領有権問題だけでなく、司法の尊厳の面でも自国民の利益を譲ってしまいました。また、ビデオを国民に見せないことで、「国民の知る権利」をも侵してきました。古典的な定義ですが、国家の3要素は「領土と国民と有効な支配」です。尖閣諸島について日本政府はまずこの3要素をないがしろにしました。「民主主義」は現代の国家にとって、古典的な3要素にも劣らぬ重要な要素ですが、ビデオの非公開方針で、これもないがしろにしたの
    です。

    sengoku 菅直人 
    sengoku官房長官    菅直人首相

    ●政府は国民の「胸のすく思い」に思いをいたせ

    尖閣ビデオの流出はその民主党政権への痛烈な批判です。菅直人首相や仙谷由人官房長官の渋面をよそに、多くの国民が胸のすく思いをしていると思います。ビデオの投稿者の名前は皮肉をこめたのか、sengoku38でした。「陰の総理」を楽しんでいたかの観さえある仙谷官房長官は、いまや国民が自分をどう見ているかを悟るべきでしょう。

    ●中国は海洋権益保護に軍事力投入

    しかし、「胸のすく思い」に酔っているわけにはいきません。日本政府の無定見と無策を尻目に中国は着々と手を打っています。日本のメディアはあまり報じていませんが、ニューヨークタイムスなどによると、中国海軍は2日、南シナ海で100隻の艦船が参加する大規模な上陸演習を行いました。南シナ海では、中国はインドネシアやベトナムと領有権を巡って軍事衝突まで起こしています。一方、この夏、北朝鮮によるとみられる韓国フリゲート艦の沈没事件に対応して、アメリカが米韓合同軍事演習のために、空母機動群黄海に進出させると発表したのに対し、中国は強硬な態度を示し、演習を日本海に押し戻しました。

    中国艦艇 
    中国海軍の駆逐艦  wikipedia

    ●法制化に続く現実化を着々と

    南シナ海と東シナ海を内海化しようという中国の姿勢は、1992年に尖閣諸島、西沙諸島、南沙諸島を中国の領土であると規定した「領海法」を施行したこと、1997年に、国防の範囲に海洋権益の維持を義務づけた「国防法」を施行したこと、さらに島嶼の管理を強化する「海島法」の立法作業を進めていることで明白ですし、尖閣諸島事件後の中国の態度、2日の演習は法律の規定を実力で血肉化しようという行為であることも明白です。

    ●場当たり対応では不測の事態も

    一方、日本政府は、自国民の利益すなわち権利を現実化する具体的な策を打ち出すこともできず、次々と進展する現実にその場限りの対応を繰り返しているにすぎません。「権利の上に眠るものは保護に値しない」という法格言を思い出します。尖閣諸島事件を無かったことにして将来の友好関係に望みをつなぐという段階は過ぎたのではないでしょうか。場当たり的な対応を繰り返していては、最前線に立つ海上保安庁自衛隊も右往左往することになりかねませんし、何よりおそろしいのはその結果、小規模な偶発的武力衝突さえ起きかねないということです。

    巡視船 
    海上保安庁の巡視船 wikipedia

    ●諸国民の公正と信義に信頼する対応策をとれ

    眠りからさめて、国民の利益、権利を守るためには、APECでの日中首脳会議について、やるのか、やらないのかを含め腰の据わった対応をすること、その上で、相手がのらなくても国際司法裁判所への提訴の道を探ることが憲法前文にいう「諸国民の公正と信義に信頼」する、国際社会へのメッセージとして有効ではないでしょうか?







    若者の安保観 岡本行夫さんの講演を聴いて - 2010.11.05 Fri

     イラク戦争後の20031129日、イラクで人道復興支援のための活動を行っていた日本の外交官・奥克彦大使と井ノ上正盛書記官とジョルジーズ運転手がイラク北部のティクリート近郊で何者かの襲撃に遭い、凶弾に倒れてから7年。奥さんと井ノ上さんの熱意を引き継ぐために設立された「奥・井ノ上イラク子ども基金」による「奥・井ノ上メモリアルフォーラム」が114日、東京・市ヶ谷の法政大学で開催されました。

    ●岡本行夫氏が日本の外交環境を解説
     
    今回のメモリアルフォーラムは7回目、同基金の選定委員会の委員である杉下恒夫さんが講師として担当している法政大学法学部の講義の場を使って行われました。杉下さんのご好意で、同じ時間の中野勝郎教授と私の講義も合同して約150人の学生が参加しました。フォーラムには、ルクマン・フェーリ駐日イラク大使が出席され、奥さん、井ノ上さんの貢献と日本の支援に感謝するあいさつをし、外交評論家の岡本行夫さんの講演が行われました。

    岡本さんは、奥さんたちの業績を称え、日本の若者を元気づける話をされたあと、尖閣諸島問題やロシア大統領の国後島訪問など難局を迎えている日本の外交環境について、やさしくかみ砕いた説明をしてくださいました。

    奥大使遺稿「イラク便り」

    ●日本の安全保障のあり方
     
    この中で、岡本さんは安全保障のあり方として、
    1)非武装中立
    2)武装中立
    3)集団安全保障
    4)個別安全保障
    の4類型を挙げ、
    1)2)3)を非現実的として退け、現実的な選択として4)のうちでも、民主主義という政治形態と自由という価値を共有しているアメリカとの日米安全保障条約を高く評価しました。

     イラク戦争 wikipedia
    イラク戦争でパトロールする米軍兵士

    ●学生たちの半数が日米安保支持
     
    そして、学生たちに「日米安保を支持するか?」と質問しました。聴講していたのは主に政治学科国際政治学科の学生ですから、「政治に無関心」といわれるいまの若者の中では、理解が進んでいる方です。そして、学生たちの約半数が「日米安保支持」に手を挙げました。岡本さんは「不支持」の挙手を求めませんでしたから、実際には挙手した学生の数よりも「支持」は多かったかもしれません。
     
    そして、その挙手の仕方は、はっきりとした意思を示すもののように見えました。「支持」の度合いの高さに岡本さんは感慨深げで、「私の学生のころには考えられなかったことだ」といっておられました。

    法政大学 本屋
    外濠から望む法政大学ボアソナードタワー
     
    ●安全保障環境の激変は若者の安保観をも変えた
     
    大学教員になってことしで6年目の私もいささか驚きました。いまどきの学生たちは対立のある問題に賛否を明らかにすることを好みません。「和」を大事にする世代です。ですから、学生たちがこれほどはっきり意思表示する姿をあまり見たことがなかったのです。岡本さんの説得力のあるお話がそうさせたのかもしれませんが、政権交代後のこの一年、日本の安保環境が大きく変わり、若者たちが真剣に、そして現実的に安全保障について考えはじめたためでもあろうと思います。
     

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     はぎたに じゅん

    Author: はぎたに じゅん
    TVコメンテーター
    法政大学法学部教授
    元朝日新聞編集委員
     政治記者、カイロ、ウィーン
     ボン特派員などを歴任
    出演番組
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