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    2010-09

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    スネ夫ニッポン  ドラえもんはいない - 2010.09.25 Sat

    日本赤軍によるダッカでの日航機ハイジャック事件(1977年)。超法規的措置で受刑者を引き渡し、身代金600万ドルを払った福田赳夫首相は「人命は地球より重い」との名言を残しました。深夜の首相官邸小食堂で行った政府中枢の協議で苦渋の決断をした福田さんが部屋を出てきたときに、超法規的措置の責任を自ら負う、この説明を、首相番記者だった私は小食堂前のホールで最初に本人から直接聞きました。


    福田 福田赳夫元首相

    ●説明責任はどこへ?

    30余年後、尖閣諸島での中国人船長公務執行妨害事件では、菅直人首相が「超法規的措置はできないのか」と、いらだっていたと読売新聞が伝えています。その挙げ句の処分保留=釈放ですが、政治主導のはずの民主党政権の幹部たちは、福田さんと違って、いずれも「検察が判断した」の一点張り。いうことを真に受ければ、一官庁に国の行方を決めさせて、リーダーの説明責任はどこへやら、です。

    脅しに対する屈服という点では福田さんの決断と同じです。また、いずれのケースも屈服せざるをえない事情があることも同じです。25日付の朝日新聞の社説は「大局的な判断であり、苦渋の選択であったといわざるをえない」と書き出しながら、多くの問題点を指摘しています。


    ●歴史認識とは

    福田さんの「人命は地球より重い」という発言は、その後、脅しに屈する国日本の象徴として批判されました。それでも、説明責任は果たしたといえます。一方、タカ派と批判された福田さんのこの考え方は、その後むしろハト派が尊重するところとなったのです。

    福田さんの相手はテロリスト集団でした。今回は、核兵器を持つ世界第二の経済大国です。比較にならないほどの難題であることはまちがいありません。しかし、今回の対応がアジアの国際政治の流れを決定づけかねないという外交感覚、歴史認識が、市民運動家出身、革新派弁護士出身の菅首相や仙谷由人官房長官にあったのか、はきわめて疑問です。

    仙谷仙谷官房長官  菅直人菅首相

    ●歴史は繰り返す

    中国は日本、韓国とは東シナ海で、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国とは南シナ海で、漁業権益海底資源、そして“領土主張”で対立しています。強大な一国と周辺の小さな国々の対立という構図です。これは中国戦国時代の故事「合従連衡」を想起させます。合従連衡とは、最も強大な秦に周辺6カ国(韓、魏、趙、燕、楚、斉)が同盟して対抗しようとした「合従」策と、秦が周辺6カ国と個別に同盟関係を築いてこれを封じた「連衡」策をいいます。

    わかりやすくいえば、クラスの中の体力も知恵もある番長に、ほかの生徒が手を組んで対抗しようとしたときに、番長がその合従を各個懐柔していくようなものです。ごちゃごちゃいうと「そんなこというなら、サシで話しをつけようぜ。表へ出ろ」と番長はすごみます。南シナ海をめぐる対立で、ASEAN諸国はASEAN全体と中国での交渉を呼びかけています。合従です。中国は「二国間で解決しよう」との態度を崩そうとしていないそうです。今回の尖閣問題でも中国はまさに「二国間の解決」で、日本を屈服させました。

    スネ夫は一人ではジャイアンにかなうわけはありません。スネ夫に説明責任を求めても「苦渋の決断」としかいいようがないでしょう。



    ●助けてくれるドラえもんはいない

    アジアはいまこうした大状況にあります。日本の屈服が、ASEAN諸国を失望させたことはまちがいありません。かつての眠れる獅子は本格的な拡張主義の姿勢を見せて咆哮を始めました。これまで、ASEAN諸国は、日本の経済力、軍事力、そして米国のアジアにおけるプレゼンスを中国に対するカウンターバランスと考えてきました。普天間基地撤去問題でハトヤマ・ニッポンをはらはらしながら見ていたのはこのためです。ところが、今回日本は、自国民にも周辺利害関係国にも、国際法と正義にかなう説明ができないまましっぽを巻きました。助けてくれるはずだった米国は、日本の安全保障政策の迷走にあきれ、距離を置きはじめました。

    flag始皇帝
                    中国共産党党旗                   秦の始皇帝       

    ●だめ押しにどう対応?

    外交力発信力でも日本の完敗です。今回の紛争で中国は「日本の司法手続きは不法で無効」「尖閣諸島は中国固有の領土」という印象を世界に植え付けることに成功しそうです。25日、中国はさらに「公式謝罪と賠償」を求めてきました。だめ押しです。「検察のせいにする」のは中国から見ても卑怯だということです。「責任者出てこい」といっているのです。魯迅は「打落水狗」、水に落ちた犬は打てと書いています。菅政権はこれにどう応えるのでしょうか? しかし、「やっちまったなあ」覆水盆にかえらず、です。

    話を合従連衡の故事に戻すと、大国秦は、合従策を連衡策で打ち破り、その上で韓、魏、趙、燕、楚、斉を一国ずつ攻め滅ぼして秦帝国を打ち立てました。かつての日本人はこの教訓を司馬遷の史記で学び、かみしめてきました。未来の歴史書が「新たな覇権勢力である中国に最初に朝貢し、アジアに新華夷秩序を成立させるさきがけとなったのは日本であった」と書くようなことがないとよいのですが。
     
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    back down  屈服 - 2010.09.25 Sat

     尖閣諸島近海で日本の巡視船に船を衝突させ、公務執行妨害容疑で逮捕された中国漁船船長処分保留で釈放されました。レアアースの禁輸の脅しや、フジタの社員4人拘束といった中国のこれまでにない強硬姿勢の中で、固唾を飲んで見守っていた日本国民は、まずは拍子抜けしたと思います。

     china  

    結論からいうと、政府はこの「平成の大津事件」の処理を誤ったと私は考えます。この禍根は、民主党政権中枢が想定するよりもはるかに大きなものになるでしょう。

    今回の逮捕容疑は、公務執行妨害でした。領海侵犯でもなければ、漁業法違反でもありません。事件海域では中国漁船の不法操業は、日常茶飯事でした。それでも、海上保安庁は違反船を追い払いうのみにとどめてきました。日中関係を配慮したからです。

    その中で、今回の中国漁船の行動は突出していました。逮捕はその結果です。意図的な挑発行為、あるいはスパイ船という観測が出るのはこのためです。

    たしかに、処分保留=釈放自体は刑訴法の範囲内です。起訴便宜主義という説明もできます。外形的には主権行為です。しかし、24日の発表での那覇地検の説明は面妖です。

    「損害がわずかであった」「計画性がない」「船長に前科がない」だけで処分保留の説明としては十二分です。しかし、那覇地検の「日中関係を考慮して」という説明には強い違和感があります。東京では、仙谷由人・官房長官が「政治介入」を否定しました。記者会見でそこを突いたメディアの姿勢は当然です。一方、検察幹部は「検察庁だけで決めた」といっているそうです。

    弱腰批判を恐れた政府が、検察に政治判断の責任を押しつけた。すなわち、政府の間接、直接の介入があったと見る方が自然です。

    もっと、いやなのはいまの検察の置かれた環境からくる疑いです。脱小沢の菅直人政権ですが、民主党には、小沢疑惑をめぐって検察への敵対意識が親小沢、反小沢を問わず存在します。そこに、大阪地検特捜部のFD改竄問題が起きました。これを機に「検察退治」に意気込む政権与党をなだめることと引き替えに「政治介入」を許したのではないかとの勘ぐりが当然浮かんできます。

    24日のテレビ朝日「報道ステーション」は、決定は仙谷官房長官主導と伝えています。首相、外相は国連総会でニューヨーク。留守番の責任者とはいえ国際政治のセンスがあるとは思えない仙谷氏の判断には巨大な?マークがつきます。

    黒船   黒船
               東洋文化協會

    submarine
     中国の漢級潜水艦
                                                                  wikipedia commons
                    
    「政治介入」をめぐる疑惑には、世論調査が内閣支持率という判断を示すでしょう。その結果、民主党政権がどうなろうと、それは主権者である国民の意思次第ですが、今回の処分保留の結果、東シナ海では中国漁船の不法操業に海上保安庁が事実上まったく手が出せなくなりました。この事実は重いと思います。

    幕末期、黒船など列強に屈服した幕府を思い出します。この結果押しつけられた不平等条約を是正して主権を確立するのに明治の日本は大変なエネルギーを費やしました。歴史は150年後戻りするのでしょうか?

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     はぎたに じゅん

    Author: はぎたに じゅん
    TVコメンテーター
    法政大学法学部教授
    元朝日新聞編集委員
     政治記者、カイロ、ウィーン
     ボン特派員などを歴任
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